"なに食べたい?"と聞くオトコと"なんでもいい"と答えるオンナ
どっちが悪いのか。
あいにく私は男であるゆえ、男の肩を持つ意見を呈したい。
待ちに待ったデートの日、
ほわほわとした気持ちになりながらもオトコは何日も前からプランを決めている。
集まって、映画を見て、ごはん食べながら映画の感想をあーだこーだ喋って、ショッピングモールでもふらついて、バーで一杯。
なんて。
初期のデートは計画性がモノを言う。
ここでおどおどしているようでは、女の子から"不甲斐ないやつ!"と呆れられてしまうからだ。
だから考える。
そして、
今までの会話を必死に思い返しながら、
行動を思い出しながら、
どんなお店に連れて行ったらいいのかを考える。
けっこうインスタがキラキラしてるから、やっぱおしゃれなところかなぁとか、
敢えて大衆居酒屋みたいな所もありかもしれないぞ、とか、
この前このイベントをリツイートしてたな、とかも。
ありとあらゆる情報を集め、仮説を立てて行く。
できるサラリーマンは遊びもできるとは、この辺のことを言うのではなかろうか。
中には、終電...なくなっちゃったね.....みたいなルートも想定されているのはオトコの性である。ロマンである。
白状したのだから許して欲しい。
というわけで、あらゆるパターンのお店のリストをスマホに忍ばせ、オトコは今日を迎える。
待ち合わせ、よし。
映画、順調だぞ。
カフェでの話も盛り上がったし、
ショッピングモールでも楽しかった。
そろそろ良い時間になってきたぞ、という刻。
ふう.......と一息つき、ここでオトコは切り出すのである。
"なに食べたい?"と。
このときのオトコは余裕しゃくしゃくである。
なぜなら調べに調べたリストが我が手中にあるのだから。
ただそんなことはおくびにも出さず、あくまでも自然な流れで誘導したいというオトコのプライドというものもある。
別に、昨日調べたとかじゃなくて、
前から美味しいお店の知識ありますよ、みたいなスタンス。
話題のお店の情報はいち早く察知してますよ、みたいなオシャレ感。
そういうのを求めてしまう。
だから、オンナが
"なんでもいい"と答えたとき、
オトコの中で繊細微妙な探りが始まるのである。
しかしここで早まって、
"近くに美味しいイタリアンがあるからそことかどう?"と言ってしまったら最期。
"あゝこいつは昨日必死に調べてきたんだな。
私そんなイタリアンの気分じゃないけど、
まあその努力に免じて許してやりますよ。"
なんて思われて、オトコのプライドが砕け散る。
だから、まずはオンナの出方を伺う必要があるのだ。
お腹はけっこう空いているのか、
和洋中ならどれか、
お酒は飲みたい気分か、
少しオシャレなとこか、わいわいした店の方がいいのか。
そういうのを会話の端っこの方から拾い集めて、ここだというタイミングで提案する。
"さっきうるさい店で飲んでみたいって言ってたよね?じゃああそこの大衆居酒屋によく行くから、そこ行ってみよっか"
こんな提案ができれば最高である。
最&高である。
少なからず女の子の意見は反映されているはずだし、オトコのプライドも保たれた。
だがしかし、
だがしかし、である。
こんなにすんなりいくことが少ないから人生はムツカシイ。
なぜか。
全くもって探れないオンナ、というのが往々にして存在するからである。
「お腹空いてる?」
「まあ普通」
「和洋中だとどの気分?」
「うーん、微妙」
「よく行く店で、美味しいイタリアンか、和食の粋な感じの店もあるけど、どっちが気分?」
「うーん、どっちでもいいかな」
「じゃあイタリアンにしよっか」
「うーん...」
「なんかちょっとは意見とかないわけ?」
「なにその言い方」
やってしまった....
ここでオトコは気づくのである。
ほんとうに大事なものは、リストなんかじゃない。彼女をおもてなしする心なんだ。ってね。
完璧な用意をしながらも、それを感じさせないくらいスムーズなエスコートをすることで、
かっこよく見せたい、自分をよく見せたいという気持ちが先行してしまっていた。
彼女を本当に楽しませたいという気持ちとは少しズレていた。
なんてバカだったんだ俺は。
彼女の気持ちにも気づけないで....
「ごめん、俺勘違いしてた。自分ばっかりかっこつけようとしてたみたい。」
「ううん、私こそ。色気より食い気みたいなオンナだと思われたくなくて。」
「そんなこと思わないよ。じゃあ、仕切り直しだね。なに食べたい?」
「なんでもいい」
今日もどこかで、オトコとオンナの終わらない戦いが繰り広げられている。
東京はいい天気だ。
fin.